第1章 ジンクホワイトの空

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ジンクホワイトの空。 青味がかった白。 絵の具のジンクホワイトそのもの。 透明感のある雲が私は、好きだ。 「市村。」 海野君だ。 「何してんでいるんだ?校門の前で。」 「ああ。」 海野君は、いつも笑顔だ。 「空を・・。見ていたの。」 「空?」 「綺麗でしょ。」 「うん・・。そうだ・・な。」 「いいわよ。無理にあわせなくても。」 困ったような、でも笑顔。 「いや、割といいと思うぜ。」 「いい人だ、海野君」 「そんな、ことはないさ。」 静かに雲が流れる。 「描きたいと思うのよね、ああいう空。」 放課後。 ここちよい春の風が頬を撫でる。 「市村は、また美術部に入るの?」 「そのつもり。海野君は、どうするの?」 「んー。」 少し悲しい笑顔で口ごもる。 「いろいろ、考えてはいる。」 「陸上は?もうやらないの?」 「・・・・・帰ろうか」 「ん。」 私達は、駅に向かって歩き始めた。 海野君は、中学最後の大会で1500m走に出て、アキレス腱を切ってしまった。 海野君はいつも走っていた。 来る日も来る日も。 でも、報われなかった。 「なあ、市村。ちょっと遠回りしない?」 「え?」 「大星神社の方。桜が満開だぜ。」 「うん、いいよ。」 大星神社のある坂道は桜並木がある。 高校に入学して二週間。 満開の頃だ。 桜は、散り始めていた。 「散り際が綺麗だって言うけど本当だな。」 「そうね。なんの種類の桜かな。」 「多分、吉野桜じゃない。」 私達は、花びらの中をゆっくり進んだ。 悪いことを聞いてしまったかもしれない。 そう思った。 大会の後、海野君は、やっぱり笑顔でいつもいたけれど。 悔しかったに違いない。 海野君は、ふと立ち止まり一本の桜の木を仰ぎ見た。 「才能なかったんだ。きっと。」 やっぱり、笑顔で。 でも、少し遠い目をして。 「でも、頑張っていたじゃない。」 「怪我しなくても、ダントツ予選落ちだったよ。」 「その・・。なんていうか。勝敗だけじゃないじゃないし。」 なんて、言っていいかわからなかった。
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