0人が本棚に入れています
本棚に追加
ジンクホワイトの空。
青味がかった白。
絵の具のジンクホワイトそのもの。
透明感のある雲が私は、好きだ。
「市村。」
海野君だ。
「何してんでいるんだ?校門の前で。」
「ああ。」
海野君は、いつも笑顔だ。
「空を・・。見ていたの。」
「空?」
「綺麗でしょ。」
「うん・・。そうだ・・な。」
「いいわよ。無理にあわせなくても。」
困ったような、でも笑顔。
「いや、割といいと思うぜ。」
「いい人だ、海野君」
「そんな、ことはないさ。」
静かに雲が流れる。
「描きたいと思うのよね、ああいう空。」
放課後。
ここちよい春の風が頬を撫でる。
「市村は、また美術部に入るの?」
「そのつもり。海野君は、どうするの?」
「んー。」
少し悲しい笑顔で口ごもる。
「いろいろ、考えてはいる。」
「陸上は?もうやらないの?」
「・・・・・帰ろうか」
「ん。」
私達は、駅に向かって歩き始めた。
海野君は、中学最後の大会で1500m走に出て、アキレス腱を切ってしまった。
海野君はいつも走っていた。
来る日も来る日も。
でも、報われなかった。
「なあ、市村。ちょっと遠回りしない?」
「え?」
「大星神社の方。桜が満開だぜ。」
「うん、いいよ。」
大星神社のある坂道は桜並木がある。
高校に入学して二週間。
満開の頃だ。
桜は、散り始めていた。
「散り際が綺麗だって言うけど本当だな。」
「そうね。なんの種類の桜かな。」
「多分、吉野桜じゃない。」
私達は、花びらの中をゆっくり進んだ。
悪いことを聞いてしまったかもしれない。
そう思った。
大会の後、海野君は、やっぱり笑顔でいつもいたけれど。
悔しかったに違いない。
海野君は、ふと立ち止まり一本の桜の木を仰ぎ見た。
「才能なかったんだ。きっと。」
やっぱり、笑顔で。
でも、少し遠い目をして。
「でも、頑張っていたじゃない。」
「怪我しなくても、ダントツ予選落ちだったよ。」
「その・・。なんていうか。勝敗だけじゃないじゃないし。」
なんて、言っていいかわからなかった。
最初のコメントを投稿しよう!