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なんか、よそ行きの言葉がでた。
「頑張ったんだし、価値あると思うよ。」
「ありがとな。」
笑顔。
でも、哀しそう。
海野君の笑顔は、時々哀しいくらい無邪気だ。
それでいて、100%の笑顔じゃないと私は思っていた。
それは、100%の笑顔を知っているからだ。
その笑顔を、向ける人を。
でも、その人は一年前のこんな桜が舞い散る中、転校してしまった。
別れの日。
無邪気にクラスメイトと話している二人が痛々しかった。
見送りの日にしては、盛り上がってしまっていた。
喧騒の中、二人の間で時が止まった。
見詰め合う二人。
二人から目を離せなかった私。
入り込めない二人の世界。
そんなものがあるような気がする。
時が動き始めた。
再びの喧騒。
別れのとき。
あの人は、何度も振り返った。
多分見えていたのは、海野君だけだったと思う。
海野君は、とても大切なものを失ったのだろう。
海野君は、それでも相変わらずだった。
いつも笑顔で、いつも走って。
そして、哀しいくらいにいつも全力だった。
「まあ、陸上はもういいかなって。」
「そう。」
海野君と花びらが戯れている。
なんだか、切なかった。
あの人なら、こんな時なんて言うのかな。
花びらが、はらはらと制服のブレザーに舞い降りる。
海野君の髪に桜の花びらが絡みつく。
「花びらが・・。」
私は、海野君の髪に、そうっと手を伸ばす。
私と海野君は、身長がそんなに変わらないから手が易々と届く。
「ああ・・。」
何の抵抗もなく・・。
私は、花びらを払う。
「市村も・・。髪が花びらで凄いことになっている。」
海野君はクスリと笑った。
「そう?」
「綺麗だな。このままがいいかも。」
「そんなこと言ってないで、掃ってよ。」
海野君の手が優しく動く。
「もう、伸ばさないの?」
私の髪は、耳が顔を出すくらい短く切っていた。
「伸ばさないよ。」
「ロングも悪くないよ。」
「誰かさんの、口車に乗ってショートしたらさ。楽さを覚えてしまったのさ。」
「まあ、ロングの方が、似合うけど。」
「ショートが似合うって言っていたじゃない。いう事が、すぐ変わるんだから。」
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