第1章 ジンクホワイトの空

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私は、中学の時に海野君の進めるままに思い切ってショートにしたことがある。 一ヶ月ぐらいして、海野君はこういった。 「やっぱりさあ、ロングのが、いいなあ。」 ふざけんな! そして続けてこう言った。 「やってみないとわかんないよね。」 なんて奴だ! その時は、本当にむかついた。 「髪を切るのって女の子には、重要なことなのよ。」 「髪の長さがどうであろうと市村は市村じゃない。」 「私は、気にするの!海野君は、どっちがいいのよ。」 「どっちもいい。」 「どうでもいいの、間違いじゃない?」 海野君のブレザーの花びらを掃う手に力を込める。 「痛いよ。」 「ふん!」 私達は、どちらともなく歩き始める。 「市村は、いつから部活出るの?」 「入部届けは、出してあるの。明日から行くわ。」 「ふうん。じゃあ、俺見学に行くわ。」 「美術部に?」 「そう。なんか、おかしい?」 「いや、なんていうか。運動部の関係にするのだと思っていたから。」 「まあ、運動関係も文化関係も見学している。」 「いいのが見つかるといいね。」 桜並木を通り抜けて、駅前の商店街に出る。 「市村みたいにブレないものがあるのっていいよな。」 「ブレない?」 「いっつも、絵描いているよね、市村って。」 「まあ・・・。好きだからね。」 「夏休みとか、いつも美術室にこもっていたし。」 「んー。描いていると落ち着くのよね。」 そういう海野君もいつも走っていた。 一人のときも多かった。 海野君の走っているのを確認して、いつも美術室に行った。 でも、何となく陸上の話は避けた。 「油絵って家じゃ描けないから。」 「文化祭の美術部の展示って市村の個展状態だったよな。」 「それは、言い過ぎ。確かに、みんなより多く出したけど。」 「でも、詳しくない俺でも上手いって思ったよ。」 「私なんか、そうでもないのよ。全然、賞とかとってないでしょ。」 「そのうち取れるでしょ。」 「そんな、簡単なモンじゃないって。」 そんなことを話しているうちに駅に着く。 JR上田駅の奥に上田電鉄の別所線のホームがある。 ローカル線だけど夕方なら30分に1本はある。 時間がぎりぎりなので座れなかった。 私達は、真ん中のドアに陣取った。 のどかな田園風景が続く。
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