第1章

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「本気じゃないなら、体を簡単にくれてやるなよ。」 食欲がないのか、里奈は最近痩せた。 「仕事を投げたナオトに同情はないけど、そんなクダラナイ事でモメてんのは呆れるな」 別に蔑んだワケじゃない。 けど、デザイナーがモデルに手を出したような事実は聞いていてあまりいいもんじゃない。 里奈はそうゆう女じゃないと思っていたし。 そうゆう関係のトラブルは後々、訴訟まで起きかねない事もある。 そんな事になったらブランドの存続は危うい。 里奈は自己嫌悪に陥ったように、眉を寄せて俯いた。 そこには堪えきれなかったように涙が流れている。 本当に割り切っていたんだろうか。 里奈はナオトを本当は好きだったんじゃないか? 割り切っていたのなら、どんなにナオトに仕打ちをされようと、そこまで哀しそうに泣く事はないんじゃないか。 人の心は読めないけど、 いつも強気な里奈が泣くほどだから 相当、精神的に参ってるのは確かだった。 隙がないように凛としている里奈がオレの前で泣く。 オレが泣かせてるワケじゃないけど、 相川さんの事件で散々ミユキを泣かせた事を思い出した。 ミユキの ぬくもりを確かめようと 胸に抱いても、 唇を無理矢理奪っても 黙って顔を逸らしたまま 涙を流し続けたミユキが脳裏に浮かんだ。 オレの存在を否定するかのように 拒絶したミユキの横顔を思い出して 胸が痛くなった。 つい、 手が伸びて里奈の頬を触れてしまった。 憐れむように……。 そしたら里奈は潤んだ瞳でオレを見て、 その向けられた瞳は一瞬熱を帯びた。 オレは慌てて手を引っ込める。 こうやって簡単に触れてしまうクセがいつもミユキを不快にさせていた事を思い出して 懲りないヤツだな、オレって。 心ん中で自嘲した。
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