第1章

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「一応、クライアント様の要望はナオトさん以外はNGって事になってるんですよねぇ……もう少し、本人を説得して頂けませんか?」 ファッション雑誌の担当者が渋い顔をしながら腕を組んでオレと里奈を見る。 ナオトはRipsh専属のメインモデルだったから、そこを崩しにくい状況にオレたちは追い込まれていた。 クライアントがナオトについてると言っても過言でもない。 結局は、 服のセンスを惹き立たせるモデルは 重要なビジネスキーパーソンとして存在していて ナオトを失った痛手はかなり深かった。 オレもナオトを引き留めるように里奈を説得したけど、 里奈は頭を横に振るばかりだった。 急に、 こんな事態に追い込まれるほど、 二人の関係に何が起きたのかと思えば男女関係の縺れ。 プライベートの二人の関係の不和が こんなにも大きくビジネスの運営に影響が出てしまった。 ……しかし 里奈が重要ポストのナオトを棄てる覚悟でいる姿勢を崩さないのを見て、説得してももうムダだと悟った。 直接オレがナオトを引き留めても、面倒くさそうな顔をされただけで聞く耳もなかったし。 ナオト抜きで、どうにかするしかないと頭を切り替えて、穴埋めをヒロキやオレで補おうとしてるけど…… どうしても、それが通らなくて、あっさり契約解除を通達されてしまったクライアントもいた。 オレを引き合いに、代わりとして頼まれる事もあるけど、 長期契約になってしまうクライアントとの契約はしない。 オレは仕事だけに縛られる事はしたくない。 仕事より、ミユキとの家庭を大事にしたいから。 オレとミユキの子が生まれたら、 父親としてありったけの愛情を注ぎ込みたい。 我が子がすくすく育つ様子を目に焼きつけてミユキと二人で育てよう。 「リューマさん、とりあえず今回だけでも代役になって貰えないですか?」 ナオト以外はNGでも、オレだったらOKしてくれるという事で、 結局折れなくてはいけない現実。 「今回は急でご迷惑をおかけしたので引き受けましょう。でも今回だけにしてください」 今回のナオトの件の謝罪と、オレがモデルとしての撮影要請を受ける事の拒否の意を含めて 頭を下げた。 オレは表舞台を降りて、Ripshの運営だけに回りたい。
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