第1章

17/32
前へ
/32ページ
次へ
無事に アパレル会社との契約が交わされる結果で終わり、達成感と安堵感に満たされながらオフィスのソファーに深く腰を沈めた。 ……よかった。 無意識に深い溜め息を吐き出す。 まずは、一店舗を獲得。 店は徐々に増やす方がいい。 とりあえず顧客の動向を見てからでも、遅くはないから。 委託といえど、店のレイアウトからディスプレイまでは里奈とオレが指揮を取る。 開店するまで気が抜けない。 一仕事を終えて、脱力していると普段の寝不足も合わさって急に強烈な眠気に襲われる。 重たい瞼でふと、 壁に掛けられている時計に目をやると 時刻は5時を過ぎようとしていた。 今日はこれで終わりだ。 ウチへ帰ろう。 ここ最近、ミユキと食事も一緒に取れないどころか、会話もまともに交わせないほどすれ違っていた。 ミユキ…… 何も言わないけど、きっと寂しがってるんじゃないかって 早く帰宅したい衝動に駆られながら、 明日のスケジュールだけを確認して、さっさと帰ろうとソファの前にあるノートパソコンの電源を立ち上げた。 そんな時、 里奈とショップのマネージャーが、何やら穏やかではない様子で話をしているのが聞こえてきた。 「ヒロキさん、何度、電話しても出ないんですよ」 マネージャーの困り果てた声。 「先方が大変お怒りなんです。里奈さんは大事なお客様と取引中だったので、中断させるような事もできなくて……」 「分かった。私の携帯からもかけてみるから」 里奈の震える声が耳に入ってきた。 胸騒ぎを覚えながらも、嫌な予感は的中する。 「……どうしたの?」 「ヒロキが……新店舗の開店セレモニーの打ち合わせに顔を出してないみたいなの」 「は?」 それを聞いて、一気に目眩を感じたオレは 鉛の様に重たくなった上半身を起こした。 「ナオトの代わりに行かせたんだぞ!」 ナオトの代役で行かせたのに顔出してないってどうゆー事だよ! ナオトのドタキャンだけでも、クライアントに頭下げて大変だったのにヒロキまでボイコットか? ヒロキはそんな無責任なヤツじゃないのに。 どーなってんだ?!
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

20人が本棚に入れています
本棚に追加