第1章

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「買い物ぐらいリューマに付き合ってもらえばいいのに」 ナオトさんが前方を見ながら、ポツリと言った。 ナオトさんの口からリューマの話が出ると、つい構えてしまうのは ナオトさんに散々、強迫観念を植え付けられたからだ。 「…………」 何も答えられないままでいる内に、ベンツは信号を右に回った。 「あ、そこのマンションです」 私は指差して、マンションをナオトさんに 示した。 「来客用の駐車場はある? 部屋まで運ぶの手伝ってあげるから」 「えっ……いや、エントランスの前につけてもらえれば大丈夫ですよ!」 部屋まで運ぶなんて……それはさすがに遠慮願いたい。 助かるとかいう前に、そこまでしてもらう理由が見つからない。 「遠慮しなくていいよ。オレ急いでないし、暇してたから。 ……仕事もしてないしね。」 最後の言葉を何故か強調してナオトさんはニッコリ笑った。 ナオトさんが遠慮してほしいんですけど…… なんて言える訳がない。 断りきれずに、ナオトさんに来客用の駐車場に案内する流れになってしまった。 駐車場に停めると、 ナオトさんは車を降りて、後部座席にある買い物袋を全部取り上げた。 「私も持ちます」 慌てて、買い物袋に手をかけると、ナオトさんは頭を左右に小さく振った。 「大丈夫。持ってあげる。オレ男だから」 そう言ってウィンクをするナオトさんはどこまでも爽やかだ。 一瞬迂闊にも見とれてしまって 我に返る。 いや、そうゆう問題じゃなくて……。 ナオトさんにそこまでしてもらう理由が見つからないんですけど……。 ナオトさんは 私の気持ちはお構い無しに、5つもある買い物袋とトイレットペーパーを持って、エントランスに向かって歩き出した。 「リューマは忙しそうだね。 オレが身を引いちゃったから、全部オレの仕事を請け負って」 エレベーターホールでナオトさんと私は肩を並べた。 ……やっぱりナオトさんの口からリューマの名前が出ると身構えてしまう。 エレベーターが一階で止まり、扉が開いて中に乗り込む。 そして、扉が閉まると私は行き先ボタンを押した。 「‥……夜のパートナーまで引き受けてなければいいけどね」 独り言のように呟いたナオトさんの言葉に 私は心底ムカッとして、ナオトさんを睨み見上げた。 さっきまで爽やかだった甘いマスクは、私を油断させるため?
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