第1章

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無言で睨み上げた私をナオトさんは涼しい顔で見下ろしている。 私の反応を楽しんでいるかのように……。 ついさっきまで 爽やかで優しくていい人だったのに、 モラルのない事を言って私を不愉快にさせるナオトさん。 私はこの人が分からない。 いつも甘いマスクを鎧にして私を困惑させてくるナオトさんは 一体なんの目的で私に接してくるんだろう? 私は深く溜め息をついて、口を開いた。 「ナオトさんは何でいつもそうやって意地悪を言うんですか? 私はリューマを信じてるんです。」 私があからさまに、不快感を露にしてそう言うと、ナオトさんは武装したような不敵な笑みを溢した。 「信じてるって言葉は綺麗だけど、馬鹿を見るからやめた方がいいよ。 ミユキさんにはオレみたいになって欲しくない」 「…………どうゆう意味ですか、それ?」 「望む通りには物事うまくいかないって事だよ」 「…………」 「人の心こそ、信用できたもんじゃない。そう思ってないと痛い目に合うよ。」 ナオトさんの冷ややかな声が居心地悪く耳に入ってくる。 エレベーターは20階を示して扉が空いた。 ナオトさんは里奈さんとの別れがあって卑屈になってしまったんだ……。 人間不信を押し付けないで欲しい。 同情はするけど。 私とナオトさんはエレベーターを出ると 部屋の前まで来た。 「ありがとうございます」 部屋の鍵を開けると、ナオトさんは買い物袋を玄関の傍に置いた。 「どういたしまして」 そして、浅く溜め息をつくと、困ったような顔して告げた。 「ミユキさんに1つだけ忠告。 今夜はリューマ帰って来ないよ。 何故だかは言わないけど、どう受け取るかはミユキさん次第だね」 「…………」 ナオトさんの言葉が理解出来なくて、言葉を失ったまま立ち尽くした。 リューマが今夜帰って来ない? ナオトさんは何を根拠にそんな事を言うんだろう? 「じゃ……。 リューマに愛想尽きたらオレが相手するからね」 そう言い残すと、魅惑的な笑みを放ってナオトさんは去って行った。 「なんなの……、一体……」 私はナオトさんの意味不明な言動に茫然とするしかなかった。
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