第1章

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リューマからの返事は 夜の8時を過ぎても返ってくる事はなかった。 リューマの実際の仕事の内容なんて知らないし、1日どう過ごしてるかなんて私は把握出来ていない。 聞く事もないし。 こうしてメッセージを送って、 すぐに返事が返ってくる時もあれば、 来ない時もある。 イチイチ気にしていたら神経すり減らすだけだから普段は気にはしないんだけど、 ナオトさんから植え付けられた脅迫観念が 私の平常心を蝕んでいた。 『信じてるって言葉は綺麗だけど、馬鹿を見るから辞めた方がいいよ』 年末リューマの実家にお邪魔した時、リューマが私を“信じてる“と言った。 それは、私がリューマの気持ちを裏切らないと確信しているような意味を含んでいた。 それなのに、 事実私はヨシとキスをしてしまった。 私がひたすらリューマを信じていても、 過ちが起きないなんて保証は全くない。 もし…… 元カノの里奈さんとリューマとの間に何かが起きたら、 私はどうなるんだろう……。 どうするんだろう……。 考えていると、次第に具合が悪くなってきて 重くなってきた心を取り払おうと、気分転換にとりあえずテレビをつけた。 そしてソファに腰を沈める。 仕込んだグラタンはオーブンで焼くだけの状態にしてあって、あとはリューマからの連絡を待つだけだった。 お腹すいた……。 そういえば、今日、ランチをとってない。 ぐぅぅぅぅっとお腹が鳴ったので、小腹を満たす為に何か食べようかと、 沈めた腰を再び持ち上げてキッチンに向かい冷蔵庫を開けてみた。 「…………」 ……いや、やっぱりリューマが帰って来るまで我慢して、一緒にグラタンを食べよう そう思い直して冷蔵庫の扉を閉めた。 リューマがグラタンを美味しそうに口にするのを思い浮かべながら、 二人で同じ食事をする幸せを噛み締めた。 私とリューマは夫婦なんだ。 その事実だけで、私は十分幸せだった。 ……と、そのはずが、 妻という意味が 妻という存在価値が 実は全く無意味で何の価値もなかったのだと 後で痛感させられる事になるとは 微塵も思ってもみなかった私は、 小腹が減るのを耐えながら、 ひたすらリューマの帰宅を テレビを観ながら待ちわびた。
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