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………そうかもしれない。
実は俺が風邪引いてたりして。
「尾崎ー!呼び出しー。」
幸吉に苦笑いを返していると、クラスメイトからのそんな声が聞こえた。
俺は慌てて立ち上がった。
「あ、すぐ行く!」
気持ちは逸る。
理由なんて、一つしかない。
「相変わらずモテますなぁ。」
「幸吉に言われたくないよ。ちょっと行ってくる。」
ドキドキ、と微かに心臓が高鳴る。
教室の扉の前に、女の子の背中が見えた。
「ごめんね、お待たせ。」
そう、声をかけると、ふわりと柔らかい動作で振り返る女の子。髪が揺れて、いい匂いがした。ああ、女の子の匂いだな、なんて思って…
目が合った。
…………違う。
その瞬間、俺は落胆する。
こうやって、呼び出されるたびに、もしかして…と期待して、目が合うたびに…落胆。それを繰り返している近頃。
俺の、求めている視線じゃない。
心臓の高鳴りも、嘘のように静かに、さぁーっと冷めていくのが自分でもよくわかって、そんな自分に苦笑いする。
反対に、かああっと顔を赤らめる女の子。
…知らない子だ。
「あ、あの、尾崎くん…あの…」
「場所、変えようか。」
緊張をあらわす彼女に、できるだけ優しい声色でそう言った。
ここは、注目の的だ。俺は今から君に頭を下げなきゃいけないから…
そんな時、ピリッと背中に感じた視線。
いつもと、少しだけ違うそれに、俺は背中がゾクゾクした。…ねえ、それは嫉妬?それとも憎悪?それともまた別の感情?
いま、君はどんな顔で、俺のことを見てるの?
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