第三章 "砦"無き少年たち ①

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「ただいまぁ…」 そう言っても、何の返答も無いことを"ゼニガタ"こと、山田慈栄は知っていた。 この時間に帰っても、自宅には誰もいない。 父が帰宅するのは、いつも午後8時前後だ。忙しいと9時を過ぎる事もある。 自宅の鍵を開けたのは、ゼニガタである。自分の部屋にランドセルと習字の道具箱を入れると、いつものように、黒い野球帽を被り、開けたドアに再び鍵をかけてから外に出た。 右腕にはそのドアの鍵と、自転車の鍵がある。 今日の"帰りの会"が終わると、"ケロ"こと、高林康隆が誘ってきたのだ。 「今日、"らぶ1"な…」 "らぶ1"とは、ゼニガタの小学校から程近いところにあるゲームセンター『LIVE1』の事である。 ゼニガタはケロに誘われ、去年から近隣のゲームセンターに足繁く通っていた。 ケロとは、一年生の時に同じクラスになった。よく遊んだが三年になり、クラスが離れると疎遠になった。だが、去年の年末の帰り道、いきなり声を掛けられた。 「"ジーちゃん"、なんか元気ないじゃん?」 それはフジコさんがいなくなって半年が経った頃だった。 「…あ、久しぶり」と答えながら、"ゼニガタ"以前のアダ名で呼んだケロを見た。 彼は、"ジーちゃん"を"セカ・プラ"に誘った。 "セカ・プラ"は正式には『セカンド・プラネタリウム』という"らぶ1"の近くにあるゲームセンターだ。 一度荷物を自宅に置きに帰り、二人で店内に入った。 初めてではなかったが、頻繁に来ていた訳でもない。 「何する?」 そうケロに尋ねられ、ジーちゃんは迷った。 財布の中には100円玉が数枚。もうすぐ月末の"小遣い日"だが、派手に散財はしたくない。 セカ・プラでは、100円で12枚のメダルに交換できる。 ジーちゃんは200円を24枚のメダルに変えた。 メダルを使うゲームをしようと思った。 メダル落とし、競馬ゲームなどをしてみる内に、パチンコ・スロットゲームのコーナーに来た。 数台のスロット機とパチンコ機が並ぶ薄暗いコーナーだった。 高い回転椅子がその前に並ぶ。 (これがスロットかぁ…) まじまじとスロット機を見た。 "聞いた事"はあった。するのはもちろん初めてだ。 ルールは知らない。 楽しさも分からない。 ただ、やってみたかった。 目の前の椅子に座って、メダルを5枚掴むと挿入口に入れた。 『credit』に入れたメダルの枚数が表示された。
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