ふたりの時間

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 どうやらここでジェラートを食うことは  いけねぇってことらしい。  けれどお前は察することができず  困った顔をし続けた。  イタリア人も着物を着た婆さんが  何を悪いことをするでもないと  わかってくれたのか   「良い休日を」  と言って去って行った。  もちろんそんなことを  イタリア語で言われたって  お前に理解できるはずがなかったが。  お前はその夜レストランに入り  なんとか日本語だけで  注文をやりとげた。    届いたのは麺の山。  お前は澄ました顔で  日本から持ってきた  皿を取り出し、  食べれる分だけ   自分の皿に取り分けた。  通りかかった給仕の男が  店の物ではない和柄の皿に気付いたが  笑顔で取り分けるのを手伝ってくれた。  翌日にはお前は  トレビの泉と真実の口を訪ねたが、  トレビの泉が何をする場所なのか  わかっちゃいないお前は  賽銭のように正面から  小銭を1枚放り投げ、    真実の口ではせっかく列に並んだのに  お前の番になってみたら    石像の口に手を入れるのは怖くなり、  観光客らが楽しそうに騒いでいるのを  遠巻きに見るだけで  イタリア旅行を終えてしまった。
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