ふたりの時間

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 集落の祭の準備中。  お清めとして口にする酒の力もあり  祭の時期は普段は大人しい奴らも血気盛ん。  毎時のようにほんの些細なことが  殴り合いの争いに発展する。  喧嘩を止めようとしたはずだったのに  お前はすっこんでろと押し飛ばされて  気が付けば俺自身が誰よりも  大暴れをしていたなんてのもあった。  そんな場にお前は来たんだ。  おとおどと、  握り飯が山盛り乗った大皿を両手に抱えて  「あのぅ」  と小さな声で玄関先に突っ立ってた。  いい歳をした男達の怒号飛び交うこの場が  おっかなくてとても中には入れなかったのだろう。  ご不浄から戻ってきた俺とたまたま目が合った。  だからお前は押し付けるように   握り飯が山盛りの大皿を俺に手渡し  そのまま小走りに逃げていった。  その様子を見ていた風呂屋の親父が  やんややんやと囃し立て、  ただの使いで握り飯を  差し入れに持ってきたお前は  お前の知らぬ間に  俺の嫁に来ることが決まっていた。  俺とお前が結婚したのはそんなふうに  酒が入った勢いで結婚が決まるってことが  当たり前の時代だった。
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