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お前が子供ができたと話したあと
一番喜んだのはお袋だった。
大事にしなければならない時期だけれど
こんなにおめでたいことはないからと
今日だけは店を自分に任せて
今評判の映画を2人で
見に行っておいでと言ってくれた。
俺は身重のお前のために
映画館に3時間並んで
座席を確保した。
立ち見客でぎゅうぎゅう詰めの映画館。
暑いだろうと氷を買って
お前に持たせて映画を見た。
評判の映画のヒロインは
噂通りにとんでもない器量良しで
俺も惚れ惚れしたけれど、
俺よりお前の方がずっと
ヒロインに夢中になっていた。
映画のチケットとパンフレットを
幸せそうに抱きしめるお前の横顔は
とても母親になる人間には見えなくて、
「そんなに喜ぶのならまたいつか
映画に連れて行ってやろう」
と俺は言ってやった。
それからお前は
弟が巣立っていくと同時に
体の大きな長男を無事に産み、
続けて女の子を4人も産んでくれた。
家庭は賑やかになったけれど
やはり商売はうまく行かず
喧嘩の多い日が続いた。
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