ふたりの時間

6/13
前へ
/13ページ
次へ
 売れ残った野菜が毎日食卓に上がり、  子供たちは肉も魚も食べずに育った。  有難いことに5人とも  元気に育ってくれていた。  お前は野菜だけでは客が来ないと  ミルクセーキを作って売った。  お前の作るミルクセーキは評判で  やがて夜街の姐さん方から  ミルクセーキの出前の依頼が  入るようになった。  出来のいい長男は俺に代わって  出前に行ってくれ、  帰りには野菜の注文も貰ってきてくれた。  そんな自慢の長男が  近所の農家で子豚が産まれたからと  見に行ってくると出掛けて行き、  日本脳炎にかかって死んでしまった。  俺は娘たちの前で  お前ら4人の娘に替えてでも  この子にだけは生きていて欲しかったと  嘆いてしまった。  お前は娘4人を抱きしめて  ひとりひとりの名前を呼んで 「違うよ、違う」 「父ちゃんの本心じゃないよ」  と慰めていた。  娘たちが立派に育ってくれたのは  お前のお陰。  
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加