ふたりの時間

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 長女は会社勤めの婿を貰ってくれて、  有難いことに生活は安定した。  俺のお袋のこともきちんと見送れた。  本当にお前は良くしてくれた。  4人目の娘も独り立ちし、  孫が8人も産まれて  俺達がすっかり   爺さんと婆さんになったあと  ずっと昔に  お前をまた映画に連れて行くと  約束していた事を思い出した。 「イタリアにでも行ってみるか」  そう言ったのは  特に使うこともない  年金が手に入ったことと、  お前が今もあの映画のチケットと  パンフレットを仏壇の引き出しの中に  大事にしまっていることに  知ったからだった。  それからが慌ただしかった。  海外旅行になんて行ったことはない。  次女は危険だからと反対をし、  長女はそんな次女を宥めて  パスポートの手配を手伝ってくれ、  三女と四女は旅行カバンと  イタリア語の本を買ってくれた。  旅行になんざ  ある程度の金と  焼酎をひと瓶持って行けば  充分だと思っていた俺は  とんだ騒ぎになったと驚いた。
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