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「はあ……」
無意識についたため息とともに白い息が口からはき出された。
少女の脳裏をよぎったのは、昨夜の家族会議。
机上に並べられた今回の定期試験の答案用紙はどれも結果はイマイチだった。
母はちょっと呆れた後、一言少女に問いかけた。
『ねぇ、将来、何になりたい?』と。
少女はほとほと困ってしまった。
☆
──大体、大人ってズルいよね、と。私は下校途中の通学路を歩きながら思った。
小学生の頃は、『漫画家!』とか『アイドル!』とか『イラストレーター!』とか言えば、大きな夢だねっていうくせに、いざ自分の将来を決めるときになると、『ちゃんとした資格のある仕事につけ』って矛盾したことを言うんだから。
「……将来の夢かぁ」
ぽつりとつぶやいた。
私は、一応大学進学を目指している、が──
……あんな成績じゃ、難しいよなぁ。
返ってきたばかりの答案を思いだし、気分が憂鬱になる。
これじゃあ、一体何のために高い学費を支払って、私立高校で勉強をしているんだか。
……夢なんて、分からない。
なりたいものなんて、ない。
どんな職業につきたいなんて、分からない。
好きな食べ物はアップルパイとビーフジャーキー。
嫌いな食べ物はセロリとウニ。
長所は、割と何事もひたむきに真面目に取り組むところ。正義感が強いところ。
短所は、人の話を聞かないところ。
単純な事なら、私ははっきり自分を分かるのに、夢とか漠然とした物になると、途端に他人の事のように分からなくなる。
……私は、何になりたいんだろう。
ふと顔を上げると、視線の先に妙な看板を見つけた。
そこは、いつも通る通学路に建つ六階ほどのビル。
そこには、色々なジャンルのお店が入っている建物だ。
現に、私自身の通い慣れた塾もそのビル内にある。
が、そのビルの最上階の壁面に『高校生の相談室』と書かれた看板が取り付けられていたのだ。
高校生の…相談室?
顔をしかめた私が足早に通り過ぎようとした時、ビルの自動ドアから、チラシを手にした男性が出てきた。
茶髪で、ちょっとチャラい人だった。顔はまあ…認めたくないけどめっちゃイケメンの。
その人と、眼があった。
幸か不幸か、それが運命のはじまりだった。
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