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で、と歩は用件を知りながらも、尋ねる。
「今日はどういったご用件でしたでしょうか?」
ええ、と淳は躊躇してから、
一度気持ちを落ち着けるように溜息をついた。
それはいつもスラスラと言葉を操る彼が
歩に初めて見せた、珍しい躊躇。
歩は淳との結婚に反対だった。
結婚前に貴子に頼んで逢わせてもらった時
一目見て、この人は信用ならない、と感じた。
嘘くさい笑顔に、心がどこにあるか分からない言葉…。
それを何の苦も躊躇もなく操るこの男が
心底気に入らなかった。
それに、人の上にずっと立ち、操ってきた
人間特有の匂いとでもいえばいいのか・・・
いや・・・
腹黒い者特有の腐臭とでもいえばいいのか・・・
底知れぬ何かを覆い隠すように
不必要に礼儀正しいこの男が歩は今もって信用できない。
・・・結局、貴子は結婚してしまったのだが・・・
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