前編

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 僕の先攻で始める。一本目、二本目とプラスチックのナイフを樽に刺して行く。この一本一本に彼女の命がかかっている。それは僕からの視点であり、彼女からしてみれば、関わりのない一人の男の子のエゴで自分の決心を揺るがせられているのだから溜ったものではないだろう。それでもこの勝負を引き受けたのは心の片隅でまだ生きていたいと願うからだろう。一本、また一本とさされてゆくナイフ。暖房がかかっているわけでもないのに僕は全身が自分でもわかるほどに汗だくになっているのがわかった。会話も無く刺されてゆくナイフ。どうして僕はこんなゲームを持ちかけたんだろう……今となってはそんな事なんてどうでもいい。一本のナイフを刺すたびに、黒髭人形が飛ばない事を祈った。そして、ついに残った穴は二つになった。どちらかが当たりでどちらかがハズレ。順番は彼女の番。 「待って」  僕はナイフを手に取った彼女の手を止める。 「ここは僕がやらなきゃいけないと思う」  震えた声で僕はそう言った。彼女は手に取ったナイフを僕に渡した。僕は彼女の運命を背負ったナイフを握りしめる。これを発明した人も、まさかこんな命がかかったゲームに使われるとは思わなかった事だろう。そんな事を頭の隅で思い苦笑しながら真剣にどちらに刺すかを考える。考えたところでわからない問題である事はわかっている。右か、左か。ここで僕が外せば彼女は間違いなく今まであの校舎へ入って行った生徒と同じように首を吊るか手首を切って天へと旅立つ事だろう。僕は深呼吸して、決めた。息を吐ききると同時に決めた穴に勢いよく差し込む。
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