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 ――空が割れた。  何を馬鹿なことをと思うかもしれないが、そう表現するよりほかない。  半透明な膜に覆われているいつもの空。その空に突然亀裂が走り、たくさんの色の絵具を滅茶苦茶にかき混ぜたかのように幾度となく色が変わったかと思うと、彼――イオリ・キノの目の前で文字通り”割れた”のだ。  イオリは口をぽかんと開け、どこか間抜けな表情でその様子を見ている。  しかしそんな表情をしているのは彼だけではなかった。  ここ島国トリニシアにあるグラゼと呼ばれる街にいた人々もまた理解し難い状況に直面し同じような顔をして空を仰いでいた。 「なんだあれ?」  イオリは怪訝な顔つきになってつぶやく。  彼の見ていた割れた空の裂け目から、なにか黒い物体がぬっとその顔を覗かせた。  そして頭から現れたソレは、空の裂け目を食い破りさらに空間を歪めるように押し広げながら徐々にその全貌を現す。  空を割って突如として現れたソレは深海魚のチョウチンアンコウのような姿をした黒い生き物だった。  だがその大きさは異常であり、飛べるはずのない空に浮かんでいるのを見てもとても普通の生物であるとは思えない。  さらにその大きなアンコウが食い破った裂け目から、体中に翅の生えた不気味な黒い昆虫のような生き物たちがワラワラと侵入してきた。  その数はもの凄いものでたちまちのうちに空の一部が黒ずんでいく。 「映画かなにかの撮影なのかな?」  誰かがそういった声がイオリの耳に聞こえてきた。  だがそれが気休めの言葉であることは、イオリもそのほかの人々にもなんとなくだがわかっていた。  空に浮かぶ異様な生物たちの姿を見た人々の心の中に恐れ、不安、焦り、興奮、様々な感情が押し寄せる。
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