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「―――――!」
と、巨大な漆黒のアンコウが言葉にならないような不快な声で鳴いた。
そして大きく口を開くと街に破滅を告げる一筋の閃光を放った。
次いで爆発。爆音。爆風が街と人々を襲う。
その出来事があまりに突然すぎたので、それがどういうことなのかを理解するのに多くの人々は少しの時間を要した。
だが皆は気づく。
これは日常がなんの前触れも断りもなくひっくり返されたのだと。これはあの異様なものたちが争いを仕掛けてきたのだと。
それに気づいた者たちが増えるにつれて、街は阿鼻叫喚の地獄と化した。
ある者は目的地も定まらぬまま逃げ出し、ある者は恐怖に屈してその場にへたり込む。
ただ泣き叫ぶ者、皆を安全な場所に誘導しようとする者。異様なものたちのその姿に興味を抱いて見上げたまま動かない者……。
様々な者たちがいるなかで、イオリは家族の元へと急いでいた。
友人たちの顔も浮かんだが、やはり一番に気になったのは家族だった。
しかし普通ならばスムーズに行き来が出来るはずの道は混沌としていた。人々が自分の行きたい方向へと動いているので押し合いになっている。
「すいません! すいません!」
イオリは誰に謝っているのかもわからずそう言いながら、人波をかき分けて自宅がある方向へと進む。
電車はもちろん動いておらず、道路も渋滞を起こしており上手く機能していない。
この状況でどうやって自宅に早く戻れるのかという冷静な判断をイオリは出来なかった。
だがとりあえず家族の無事を確認して安心したい、その一心でとにかく足を進めた。
その途中、後ろをふり返ってみるとあの巨大なアンコウのようなものが腹部の辺りを開いている様子が見えた。
その腹の中に収まっていたのだろうか、そこからさらに異様な生物たちが何百匹と湧きだしている。
そして湧きだした生物たちは手当たり次第に街を破壊していた。
身体中に翅の生えた不気味な虫も神経を逆なでする嫌な羽音を響かせながら空を飛びまわり街を蹂躙する。
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