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「くそッ!」
イオリはやり場のない感情を抑えようと手を握りしめた。
この状況を見ていることしかできない自分が情けなく、ただ惨めで悔しかった。
自分は力がない。何もできない。弱い。
普段あまり感じることがなかったこの事実がイオリに突き刺さる。
――自分に力があればあいつらを殺したい。
イオリは心の底からそう思った。
抱いてはいけないと教えられていた感情が堰を切ったように溢れだす。
そしてイオリはこの街を力任せに嬲る悪魔たちを歯ぎしりをしながら睨みつけた。
「お兄ぃ!」
と、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
その声を聞いて、イオリの胸に湧き上がっていた負の感情が洗い流される。
「カンナ!」
イオリは妹の名を叫んで、後ろをふり返る。
するとそこには見知った顔の女の子が立っていた。
「よかった! 無事だったんだな!」
イオリがそういって妹の元へ向かおうとする。
だがそんな妹を黒い影が覆う。
それは街を壊して回っていた翅のたくさん生えた不気味な昆虫だった。耳障りな羽音を響かせてイオリの妹を真上から見下ろしている。
「カンナぁッ!!」
イオリが叫ぶ。
不気味な昆虫が無数の牙を生やした大きな顎(あぎと)を開く。
「やめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ――!!」
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