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 ただイオリの部屋は物が極端に少なく、あまり生活感がない。  事実、イオリが私物として持ち込んだのは置時計と小さなテーブルとタンス、そして今はもういない家族の写真だけだった。  この事を他の隊員などにつっこまれるとイオリは決まってこう言っていた。  ――いつ自分が死んでもすぐに次の人員に部屋を明け渡せるようにしているだけだ。  だがそう言うと直属の上司にイオリはいつも怒られてしまう。  だから最近のイオリはうまくはぐらかすという方法を取ることにしている。  準備を整えシャワーのみの小さな浴室に入ったイオリは、蛇口を捻って身体を覆う嫌な汗を熱いシャワーで洗い流す。  雨のように途切れることなく流れ落ちるシャワーに打たれながら、イオリは久々に見た”あの夢”の事を思い返した。  最近は見なくなっていたあの夢――”空の割れた日”の夢。どうしてまたあの夢を……そうか、もうすぐ3年か。  イオリは眉をひそめ、シャワーを止めた。  人間は時間が経てば嫌なことも忘れてしまうとよくいうが、たった3年ではイオリの心の中からあの日の出来事は忘れさられることはなかった。  あの不気味な生物たち――のちに”ガリオン”と名付けられたあの悪魔たちに思い出の場所を破壊され、大切なものを奪われた。それを忘れられるはずがなかった。  イオリはタオルを手に取り、濡れた頭や体を拭いていく。  さっぱりとした体とは裏腹にすっきりとしない思いがまだイオリの胸中に残る。  だが時間は待ってはくれない。時計を見れば、毎日行われている定例ミーティングの時間が迫っていた。  移動時間を考えればそろそろ部屋を出なくてはいけない。  イオリは小さく息をつき、新しい衣服に着替る。そして壁掛けに掛けていたサイクスの企業ロゴの入ったジャケットを手に取るとそれを羽織った。  そうするとイオリの気持ちは切り替わる。  ガリオンたちを殲滅する巨大人型機動兵器ディーンドライブを操るアストロノーツ、イオリ・キノとなった彼は口元を引き締めた。  そしてテーブルの上に無造作に置かれていたドッグタグをひったくるように掴むとイオリは自分の部屋を後にした。
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