波乱の春

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「ふふ。気に入ってくれた?僕からのプレゼント」 『ええ、とても。初めて理事長に感謝たしたくなった』 「静ってほんと僕のことどう思ってるの?」 「っ!どうして、どうしてだ。如月!」 すると、しばらく呆然としていた長内が苦しげな表情で俺の肩を掴んだ。その手は微かに震えている。真面目で優しい長内だから、理事長の真意より先に俺のことを案じてこんな風になっているだろう、と俺は予想をつける。 「なぜ、二カ月間も一人で仕事をし、あまつさえ特待生の地位も守ってきたお前がS組から落とされ、無能な他の役員がのうのうとS組にいなくてはならない」 『…長内』 「俺はお前の負担を少しでも軽くしたかった。だけど、お前がそれを拒んだから黙って見ていた。この日が来るのを、お前が負担から解放され安寧を得るのを待っていた。なのに、」 『長内』 「これから学園は少しずつ荒れるだろう。そんな中でお前は一人でやっていけるのか。俺は、お前を」 『…大丈夫だ、長内。お前が思うほど俺は疲れてねえし、弱くねえよ。それに、お前の目が届くのはS組だけか?なあ、天下の風紀委員長様がこれぐらいで弱ってんじゃねえよ』 長内の言葉を遮り、目を合わせたままゆっくりと言葉をつむぐ。届け、届け。この真面目で不器用な、優しい男に。有り余る責任感が時たま長内を弱くするのだ。それも、特に俺のことで。 生憎俺はほんとうに長内の考えるほどに脆い人間ではない。 生徒会の任期を終え、全校生徒の前で生徒会や転校生を挑発した今も全く動じていない。これがどんな結果を生もうとも、平気でふらっと学校に通う自信がある。それに、理事長が俺をS組からA組にする本当の目的も見当がついている。 『長内。俺は高等部に編入以来、お前に至っては中等部から、きっと役員としてしか学園を理解していないんだよ。多分、俺がS組じゃなくなっても、事態はそう悪くならない』 「っ、お前は、なにも分かってない…。Aには風紀も手を出せない男が一人いるのを忘れたか」 くしゃり、と顔をゆがめて長内が俺に言った。それってまさか、と理事長を伺うと、同じことを考えていたようでふにゃふにゃとした笑みを返された。
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