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レントゲンを貼り終わると、またこちらを向いて胸に付いているタグのような物を見せてきた。
そこには、
"神経内科医 太宰 治"
と、書かれていた。
「ミコトさんの担当医の太宰と言います。これからよろしくお願いします」
ダザイ オサム……?
どっかで、聞いたことある名前。
笑顔で妹に手をさしのべ握手する。
砕けたセンセイの態度にこっちの緊張もほどけて、妹も笑顔で「こちらこそ」と言う。
俺にもニッコリと笑顔を向ける。
不意をつかれたようだ。
こんな、医科大学付属の病院っていう大きな肩書きに怯えて身構えていたけど……
考えすぎだったのかな。
センセイの態度からして、そんな重苦しい感じは全く無い。
ちゃんとした検査を受けたほうがいいってだけで、大きな病気じゃなかったんだ。
少しホッとした。
どうせ、四十肩みたいなもんでちょと検査して薬飲んだら終わるんだ。
「センセイ、妹の……」
「ああ。ミコトさんの病名はALS 筋萎縮性側索硬化症です」
……
聞いたこと無い、早口言葉みたいな病名に俺ら兄妹がポカンとするなか、センセイは、淡々と話を続ける。
「ALS は、筋肉の動きを支配する運動神経細胞に異常をきたす病気で、これから益々体が動かしにくくなります」
表情を変えずに訳のわかんないことをただ羅列してるようにしか聞こえない。
えーえるえす?
センセイの言葉が右から入って左から抜けていく。全く頭に残らない。
俺がバカだからよくわかんないだけだよな。
俺らみたいな普通の人間がそんな……まさか
「その際、腹部に胃瘻という直径……」
「センセイ……!」
訳がわかんない話。
別に簡潔に言ってくれたらいい。
早く安心が欲しい……
俺は動揺を隠すように小さく深呼吸して、妹を見た。
やっぱり、兄妹そろってバカだから。
妹もさっぱりって顔で俺のこと見てる……
「センセイ……妹は、何ともないんですよね?」
しばらく、チクタクと時計の秒針の音が聞こえる。
チクタクチクタクチクタク……音が増える度、怖くなる。
センセイは、俺たちのバカさ加減にあきれているだけだよね。
どう言えばこのバカに理解できるか言葉を探しているだけだよね。
どう言えば傷付かないか言葉を探しているんじゃないよね……?
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