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慰めるでもなく、気休めを言うでもなく、ただ私の目の前に突っ立ているだけの青年。
すると、彼の口がわずかに動きました。
「死んで逃げようとするなんて、卑怯だからな」
低く、とても怖い声。
風で彼の黒い髪がゆらゆらと揺れていて、静かな時間が過ぎていきます。
私は何も言えませんでした。
"卑怯"確かにそうかもしれません。
私が死ぬことによって、イジメから自動的に解放される……
それどころか、あわよくばイジメの首謀者が苦しめばいいと思っていました。
卑怯という言葉に心痛める私は、やはりまだ優しい人になりたがっているようですね。でも、やっぱりこの人生を終わらせるには死ぬ以外考えられないんです。
「ここで、死なせてください」
家に帰ればまた、親に学校に行かないのかと攻め立てられる、そんなことも、もう嫌なんです。
限界です。
彼にとられたカッターを再び奪いに手を伸ばす。
まぁ、座り込んでいる私が立っていて背も高い彼の手にあるカッターに届くはずもなく私はただただ手を伸ばすばかりです。
立てばいいのも解ってはいるんですが、どうも足には力がはいりません。
まぁ、立ったところで身長の差はかなりあるわけで、結局何も変わりはしません。
地べたを這いずる私を冷たい黒い瞳が見ている。
ああ……私の人生はずっと誰かに見下げられる人生だったな。
イジメられる前も……後も。
だから、優しい人になって誰かに感謝してほしかった……なのに、何でこんなことに。
「死なせてください。お願いします!」
もう見上げるのにも疲れて見上げるのもやめる。
目を開けると地面しか見えませんでした。
「人に……見下される人生は、もう嫌なんです」
そう、もう嫌だったんです。
あがくのも、何もかも……私はもしかしたら、イジメがなくったとしても自殺を図っていたのかもしれません。
私は生きてる価値がみいだせなかったんです。
代わり映えのしない人生に飽きたのかもしれません。
「死んでもなんも変わんねーぞ」
低い彼の声がすぐ近くで聞こえました。耳に彼の吐息がかかります。
彼は膝を地面につけていて、顔を上げると私と目線がほとんど変わりません。
すごく近くにある男の子の顔は、モデルさんの様に整っていてまるでお人形さんみたいな顔。
鋭くまっすぐな瞳に思わず顔が赤くなってしまいます。
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