第二話 はからざる。

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配達において厳格な時間指定はほとんど受けないが、それでもできるなら文は早いほうがいいだろう。 その思いが、飛脚として多々良の背中を押すのだ。 すぐに当初の配達順路を再考。より最速の道順をはじき出してから、走っていた道をはずれ、茂みに飛び込む。 ちりちりと葉っぱや小枝が顔を叩いていくが、何のこれしき。 傾斜を滑るように下り崖終わりを蹴りあげる。そのまま跳躍しながら小道を挟んだ向かい側の石垣に飛びついた。 「な、なんじゃ!?」 石垣を挟んだ向かい側は畑だ。作業をしていたおじさんが素っ頓狂な声と共にこちらを振り返っている。 「ごめんよおじさん石垣借りる!」 「まーたお前か! 何度も言うとるがそこは道じゃないんだぞ! コラ、聞いておるんかい」 「だからごめんてー。今度何か差し入れに来るから」 そのまま走り出した多々良に後ろで叫ぶおじさん。ああは言いつつも、なんだかんだで許してくれているんだから優しい人だ。 住居が所せましと並ぶここらは大きな道しかないため、下を行くと随分と遠回りになる。 そこで思いついたのが猫の通り道でもある石垣爆走コースだ。 たまに猫同士の縄張り争いに巻き込まれたりするけど、それ以外はかなり快適で何より早い。
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