II

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消えちゃいたかった…… 誰もいない所に どうしても理解出来ない仕事。 何度も繰り返すミス。 会社に入って もう三年がたつ。 おかしいと気付いたのは 三ヶ月位たってからだった。 教わった事が、 なかなか理解できない。 飲み込む迄に 時間がかかる。 同期の子が、どんどん仕事を覚えていく。 気持ちばっかり焦って…… 焦れば焦るほど ミスが増える。 家に持ち帰って 必死であんちょこを作った。 会社でメモった紙を 繰り返し読んだ。 ずっと 必死に頑張ってきたんだ。 記憶が溢れないように…… かかってきた電話の内容を 付箋に書いて 机に貼り付ける。 机は付箋だらけ。 でも 折角書いた付箋すら、 端折って書くとわからなくなる。 ーーー片岡商事に2時に電話ーー?? なんで電話するんだっけ? どうしよう。 電話口に置いたメモを 必死で読み返す。 落ち着け!思い出せ! 頭の中からぼろぼろと溢れる記憶。 お客様の顔も覚えられなかった。 毎日の様に 会社に来る取引先の営業さんの顔すら どうしても覚えられなくて あんちょこに相手の特徴を書く。 でも、眼鏡のスーツ着た人も 太った人だって 世の中にはたくさんいるんだ。 それに、 突然来た営業さん、もう 名前を言ってくれない。 「こんちは!社長います?」 って…… いきなり、扉を開けて聞く。 誰だっけ? 顔はわかるけど、名前が出てこない。 目の前であんちょこなんて 開けない。 毎日のように来る人だもん。 今更 どちら様ですか?なんて 聞けないんだ。 社長に伝えなきゃ…… でも誰が来たって言うの? 「社長!お客様です」 社長室に入って そう言い捨てて、逃げるように 給湯室に入った。 もう限界だよね…… たくさんのすいませんの言葉に 埋もれて 今 私は生きている。 上司の見下したような灰色の瞳が 頭から消えなくて ただ 悲しかった。 転職しなくちゃ 私は大きなため息をついて、 もう一度暗い空を見上げた。
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