II

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「ショック受けないでね… 話しても大丈夫…?」 ……………やっぱりだ。 私は医師を真っ直ぐに見て頷いた。 「大丈夫です! ちゃんと、自分の事、知りたいし……」 無理やりに、作った笑顔で言った。 所狭しと、難しそうな本が、重ねて置かれた 教卓程ある大きな机の、向こうから、 五十半ばの、恰幅のいい医師は 私を見つめ、頷いた。 ここは病院 心療内科… 10畳程の部屋で 診察室と言うよりは、 応接室。 落ち着いた、ロココ調な壁に、ライトブラウンの、家具と本棚。 私の座っている椅子の、後ろには 品のいい、花柄の応接セットが、置かれている。 微かに流れる ゆったりとした音楽と、 軽いアロマの香り。 白髪混じりの髪を、かきあげながら 医師は、話しを続けた。 「今日の、検査の結果からすると 何かひっかかりそうなんだ。 今は昔と違っていろんな病名がある。 まぁ元々あったんだが 最近は色々と騒がれてる。 例えば、ADHD、他にもアスペルガーとかアダルトチルドレン、LD いろんな名前がついてる。 落ち着きのない子。集中力のない子。 場の雰囲気を読めずに授業中 喋り出しちゃう子とか どのクラスにも 一人や二人、そんな子がいた。 だからって それも一つの個性だって みんなそう理解してた。 でも今は、核家族の時代だし、子供も多いとこで いいとこ三人。 だから 親が一人の子供に手をかける時間が増えた。 その分、他の子供と比較したり 例えば 隣の家の子供は うちの子と同じ年なのに、もうパズルが出来るとか、 平仮名が読めるとか やたらに気にし始める。 育児書なんかも氾濫してるし 三カ月で首が座って8ヶ月でハイハイができるとか、 標準をやたら気にする親が増えた。 だから、 まぁそれで発見が早くもなったんだけど、」 そう言って 少し笑って医師は私を見た。 「つまり、なんとなくずっと自分の中で覚えが悪いとか、 なんとなくおかしいと思いながらも そのまま大人になった昔の人間は、 そのまま社会に出て、 幼い頃から感じていた人とは違う違和感に、気づく。 学生時代は、例えば何か失敗しても、自分が恥をかくか、 テストの点が悪いとか 自分が困るだけなんだ。 でも 社会に出るとそうはいかなくなる、 失敗が職場の人間に迷惑がかかる。 それだけじゃない。 会社の信用にまで響いてくるし、 たった一つのミスが何百万の負債になったりする。
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