II

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そうだ……自転車なかったんだ。 改札を抜けて 私はまた、深いため息をついた。 朝起きたら 自転車の鍵が見つからなくて 遅刻ギリギリまで部屋中 探し回って 諦めてタクシーに飛び乗った事を 思い出す。 駅から自宅までは 歩いて20分はかかる。 もう11時。 この時間は タクシーすら見つからない。 バッグから携帯を出して もう一度、深いため息をついた。 歩くしかないよね。 せめて、急行の止まる駅の近くのアパートを探せばよかったんだ。 一人暮らしをしたら、トモ君が遊びにきてくれるって 浮かれて借りたアパート。 それも、もう必要ないんだ。 トモ君に、会いたい。 なんであの時 帰ってきちゃったんだろう。 後悔がよぎる。 でも、 怖かったんだ。 なんだかトモ君が別人みたいに見えて…… あんな事、するなんて 悪ふざけがすぎる ゆっくりと自宅に向かい歩き始めた。 トモ君に話した私が 馬鹿だったんだ。 病院の帰り道、 一人で抱えきれなくて トモ君に、今から会いたいってラインした。 飛んできてくれたトモ君の顔見て、 泣きながら病院での事を話た。 それから なんとなくトモ君の態度が 少しずつ変わっていっちゃった。 色のついた眼鏡をかけてトモ君が私を見るようになってから やっと気付いた。 話しちゃいけなかったって…… 「でもね、まだグレーなの」 「グレーって?」 「だから検査した訳じゃないし、 はっきりわからないって事。 考えたらさ、空気が読めないとか うっかり人に嫌な事言ったりって 誰にでもあるでしょ? 私が気にしすぎたのかも…… ただ、トロいだけで……」 「でも、可能性があるって事でしょ? ちゃんとおっきい病院で検査してみたら?」 私の話に、 トモ君が被せるように言ってきた。 私は黙って頷いた。 もう、否定出来なかった。 あの話をする前は トモ君、私の言った事にいつも笑ってた。 本当に飛鳥は天然だなって …… そう言って笑ってくれてた。
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