III

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「行ってきます」 玄関から、小さな声がして 八重は、慌てて立ち上がる。 「気をつけてね」 靴を履いた美波が ゆっくりと振り返って頷いた。 出掛ける美波の背中を見つめて ふっと息を吐く。 美波は 二階の部屋に引きこもって 何を思って生きているのだろう。 美波のいなくなった玄関で八重は 立ち竦んでいた。 ほっとしている自分に苦笑する。 一日中 二階の物音に神経を張り詰めて生きている。 階段を降りてくる足音に 身構える。 息が苦しくて…… 美波の顔を見るのが辛い。 八重はリビングに戻って 窓を大きく開けた。 ふわりと 心地いい柔らかい風が頬にふきつけて 八重は、大きく伸びをした。 今日は天気がいい。 洗濯をしよう。 それから、買い物に行こう。 美波の好きなハンバーグを作って、 美波が帰ってきたら 新しく買ってきたゲームの話を聞こう。 私に出来る事を もう一度一から…… やり直してみよう。 あの子は、私のかけがえのない大切な娘。 八重は窓を閉めて 浴室に、向かって勢いよく 歩き出した。 ーーーーガタン!! 二階から大きな物音がして 首を捻った。 階段の手摺に手をかけて八重は 声をかけた。 「美波、いるの?」 きっと、 忘れ物でもして取りに戻ったのだろう。 返事がない事に、首を傾げながら 八重は二階へと向かった。
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