III

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あの子の過去に なにがあったのかわからない。 でも、今からだって まだ遅くない。 せめてアルバイトでもしてくれれば 新しい友達が出来る。 友達と遊びに行ったり、 好きな人と一緒に過ごす時間。 誰もが当たり前のように経験する 楽しい時間を あの子に過ごさせてやりたい。 一人きりで、一日中ゲームをするあの子を思うと 悔しさで涙が溢れる。 カタカタと音がして八重は 後ろを振り向いた。 誰もいない。 八重は肩を竦めて部屋を出た。 階段を降りる八重の背後で 又、音がする。 おかしい……やっぱり何かいる。 大きく息を吐いて 自分を落ち着かせると 八重は 足早に階段を降りた。 「母さんどうしたの? 顔が、真っ青だよ」 階下にいた恭平が 八重に声をかけてきた。 安堵で小さく息を吐き出し 慌てて笑顔を作る。 「なんだか、おっきな物音がして 二階を見てきたの。 でも勘違いだったみたい」 「ねぇちゃんだろ?」 「今日はいないのよ」 恭平が八重を見て 訝しげな顔をした。 「どこいったの?」 「新しいゲームが発売するんですって」 もぞとぞと答えた八重を見て 不快そうに恭平が言った。 「また金渡したの?ゲームの発売日って言って 先月もお金渡しただろ? だから、あいつ……」 そこまで言って、黙り込んだ恭平は 階段を駆け上がって部屋に入っていった。 そう…… 甘いって言われても 何も言い返せない。 だからって、 何も楽しみのないあの子に、 例えお金を渡してでも、気晴らしになるなら 外に出て欲しい。 ……お金がなかったら、 電車に乗ることだって出来ないのよ…… 自分の部屋に入っていく恭平を 階下から見上げながら 聞こえないように言い返す。 甘いと言われても 仕方ない。 でも、だからって あの子は他に 楽しみなんかないんだ。 二階で 何かが落ちている事もなかった。 いったい何の音だったんだろう? 八重は頭を振って 洗濯機が置いてある浴槽に向かった。
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