IV

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急に怒り出した飛鳥。 俺は飛鳥を追いかけることも出来ずに テーブルの上に置かれた十円玉に 一人、指を置いていた。 「どうか、お帰りください」 震える声で、そう言った。 でも…… 十円玉はピクリとも動かない。 やべぇ…… 朋樹は もう一度、声に出して言う。 「どうか、お帰りください」 時間だけが どんどんたっていって…… でも……今手を離したら きっと、やばいことになる。 飛鳥の話が頭をよぎる。 十円玉を置いた人差し指の震えが止まらない。 落ち着け! 「くそっ!」 なんでこんな事しちまったんだ。 ほんの遊び心だった。 なんだか寝付けなくて、 飛鳥の話しの後だったし つぃ…… やってみようかなんて 馬鹿な考えおこして 悪ふざけにも程がある。 頼む、帰ってくれ! ずっと動かなかった十円玉が ゆっくりと動き出した。 動き出した十円玉は 文字の上を、勢いよく ぐるぐると回り始めてぴたりと止まった。 「は」 なんなんだ!! 頼む!やめてくれ! 十円玉が次の文字へと動き出す。 「じ」 俺の手の中で 勝手に動き出す十円玉。 「ま」 「る」 速度をあげて動き出した十円玉は 四文字の言葉を残して、 鳥居に戻っていった。 ようやく手を離して 大きく息をはいた。 何やってるんだよ。 自分の馬鹿さ加減に腹がたつ。 飛鳥が帰って どれ位時間がたったんだろう。 誰もいない部屋。 叩きつけるように窓に当たる雨。 朋樹は、声も出せずに 窓の外に降る雨を見つめた。
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