予定は未定

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朝、仕事に行く前にテレビで見たニュースで 俺の好きな女性アナウンサーがそう告げていた。 「モドキ山か…」 正式には夕芽(ゆうめ)山という名だったが 地元の人間はみんなモドキ山と呼んでいた。 最初は形が富士山に似ていたことから 富士モドキ山と呼ばれていたが いつしか省略されてモドキ山と言うようになった。 モドキ山はまさしく、俺の住んでいる街に存在していた。 噴火したら大変な事になる。 だけど特に焦りはなかった。 噴火するかもしれないというのは あくまで「しれない」という予定であって 予定はあくまで未定だ。 アナウンサーもかわいい声でまだ調査中だと告げ 実際モドキ山は、比較的頻繁に噴火の恐れがあるといわれ注目されていたが 結局毎回噴火するかもという噂は噂だけで、俺が生まれてから現在まで、一回も噴火する事もなければ もちろん避難する事態に陥ることもなかった。 テレビを消した時 携帯が鳴って画面を見た。 友達の、幼馴染の新田(にった)からのメールだった。 『噴火したら危ないな。真野(まの)はどこ逃げる?』 あまり危機感を感じない俺とは対照的に 新田は噴火の恐れがあるというニュースや噂を聞くと 決まって同じ内容のメールを送信してきた。 『焦りすぎ。まだ確定じゃないでしょ』 そして俺も、決まって同じ内容のメールを返信していた。 毎回新田もこのメールを送る時は わざとなのかなんなのか だいたい俺が仕事に行くために家を出る時間に送ってくる。 正直メールの返信をするのはひどくめんどうだったが、それでも律儀に返信をしているのは 何回かやりとりが続いたのち 起きたら必ず歯を磨くように トレイに行くように ご飯を食べるように このメールが来たらこの返信をするという 生活する上での行動の一部に自然となっていたからだった。
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