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ふと我に返り隣を見上げると、彼は無表情に一行を見送っている。
「綺麗ですね」
「そうですね」
笑顔を繕い話しかけると、彼は元通り穏やかな笑みを浮かべてさらりと相槌を打ち、小道を歩き始めた。
ほとんど感情の起伏が見えないのは、きっと淡白な人なんだろう。
その方が気楽でいいのかもしれない。
彼の背中を見ながら、秘かに心を決めた。
間違ってるのは分かってる。
でも、私はこのまま捨てきれない恋情を一人で抱えてあの二人の結婚を眺めている孤独に耐えられそうになかった。
あの男以上の相手と結婚して、見返してやりたい。
そんな時に降ってきた縁談は、まるで運命の巡り合わせのような最高の条件だった。
あの男がどうしても勝てない、唯一の存在──それが黒木裕一だからだ。
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