婚約

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*** 私が黒木裕一との見合いに至った経緯は、少し前に遡る。 私には、三年前から社内に秘密で交際している恋人がいた。 桐谷寧史(キリタニヤスシ)。 私より二年先輩の三十才で、エネルギー関連企業であるうちの社で、海外プラント部門に所属している。 彼はとても目立つ存在だ。 華やかなルックスもさることながら、仕事での活躍はめざましく、いつも彼は若手社員の話題の中心にいた。 私にはただ眩しいばかりの遠い存在だった。 そんな彼と私が初めて接したのは、何かの決裁で彼が経理部とやり取りした時、私が担当したのがきっかけだ。 彼みたいな人気者には近づくまいと、惹かれる心をセーブしていた私に、ある日奇跡が舞い降りた。 伝票倉庫で二人で過去の決裁書を探している時、抱き寄せられキスされて、好きだと囁かれたのだ。 女性社員みんなが憧れる先輩。 二人きりの倉庫。 ごく平凡な男性経験しかなかった私は、そんな少女漫画のようなシチュエーションと彼の強引さに、それまでの警戒も忘れて夢見心地で流された。
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