26779人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
***
私が黒木裕一との見合いに至った経緯は、少し前に遡る。
私には、三年前から社内に秘密で交際している恋人がいた。
桐谷寧史(キリタニヤスシ)。
私より二年先輩の三十才で、エネルギー関連企業であるうちの社で、海外プラント部門に所属している。
彼はとても目立つ存在だ。
華やかなルックスもさることながら、仕事での活躍はめざましく、いつも彼は若手社員の話題の中心にいた。
私にはただ眩しいばかりの遠い存在だった。
そんな彼と私が初めて接したのは、何かの決裁で彼が経理部とやり取りした時、私が担当したのがきっかけだ。
彼みたいな人気者には近づくまいと、惹かれる心をセーブしていた私に、ある日奇跡が舞い降りた。
伝票倉庫で二人で過去の決裁書を探している時、抱き寄せられキスされて、好きだと囁かれたのだ。
女性社員みんなが憧れる先輩。
二人きりの倉庫。
ごく平凡な男性経験しかなかった私は、そんな少女漫画のようなシチュエーションと彼の強引さに、それまでの警戒も忘れて夢見心地で流された。
最初のコメントを投稿しよう!