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暖房の効いたロビーからガラス扉を抜けて庭園に出ると、一月の冷たい風が薄いワンピースの裾を揺らした。
「池まで歩きますか?」
「はい」
寒さのせいなのか、人生初のお見合いというこの状況のせいなのか、足元から震えが這い上がってくる。
こちらを軽く振り返った長身の男に頷いてみせ、ぎこちなく微笑み返した。
ここは都内の格式高い老舗ホテル。
広大な敷地には池の周囲に小道を巡らせた日本庭園がしつらえてあり、ガラス張りのロビーから四季折々の風情が楽しめるようになっている。
友人の結婚式で訪れたことはあるけれど、まさか自分がここでお見合いをすることになるとは夢にも思わなかった。
あんなことがなければ、お見合いなんてするはずはなかった。
私はこれで本当にいいのだろうか?
固かったはずの決意を揺らす迷いを心の隅に追いやって、男の半歩後ろに続いた。
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