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目を瞑って崖から飛び降りるような気分でボタンを押す。
呼び出し音を聞きながら震える手をもう片方の手で押さえたけれど、両方震えていたからあまり意味はなかった。
「……もしもし?瀧沢です。今日は大変お世話になりました」
先へ進めば進むほど、後戻りできなくなる。
上司絡みの縁談だから、きっとこの電話が事実上の最終決断になってしまうのだろう。
大きく息を吸い込んだ。
「……はい。私も、このお話をお受けしたいと思っています」
電話を切ってから、まだ部屋のあちらこちらに漂う寧史の幻をぼんやりと眺めた。
壁には、子猫の写真の真新しいカレンダーが下がっている。
寧史と出掛けた時、いつか猫を飼いたいねと一緒に選んだものだった。
このカレンダーに、二人の新しい一年の思い出が綴られていくはずだった。
でもあの時すでに、寧史は西野円香を抱いていたなんて。
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