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その日この店の扉を開いたのは、何ともこの店に似つかわしくない……否、ある意味とても似つかわしいかもしれない少女だった。
少女は、ふわふわの白いワンピースに身を包み、かなり大きめの白いリボンでピンクの長い髪をツインテールに結んでいる。
年の頃ならそう12、13歳程。
少女は扉を開けるなり、
「虹翼(コウヨク)!勿論無花果(イチジク)のタルトはあるんでしょうね」
そう叫びながら、ツカツカとカウンターの方へと進んだ。
そして、持っていたピンクの日傘の先を床に付き『ヨイショ』と少し高めの椅子に腰掛ける。
そこへ駈け寄って来たのは、いましがたこの少女に『虹翼』と呼ばれたウエイトレス。
この店の看板娘である。
「勿論ありますよ、マリさん。お飲み物は」
「珈琲。ブラックで……ミ」
「ミルク多目、ですよね」
全てを見透かしたようにそう言って微笑む虹翼。
『ミルク多目』は最早ブラックではないが……まぁ、その辺りには敢えて触れない。
何故ならそれは、いつもの事だから。
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