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――それは、今も?
まさか、今も、変わりなく?
心配するのは自分だけの特権だと、そう、思っているのだろうか?
「別に女じゃあるめーし心配なんてすんなよ」
尖った口調に、しかし(やはり?)、亜澄はひるみもしない。
「心配だよ。ここのところ、ずっと調子悪そうじゃないか」「んな事、おくびにも出してなかったくせに、今更言うなよ」
「今じゃなくて、いつ言うんだよ。晶、今日がいちばん辛そうだ」
「勝手に決めんな。おめーに心配してもらわなくても、いつかは治る」
「いつかって……いつかもしれないんじゃ、余計心配になるだろう」
「じゃあ、明日には治る。これでいいか」
「晶、そんないい加減、俺が許すと思うか」
二人が口論している間にも、夏の夜気がぐんぐん降りてくる。人通りが活発になる。熱気をはらんだ風が吹く。誰も、二人を振り返りはしない。
晶は、いい加減、面倒になって、言った。
「俺の心配より、デートする彼女の心配でもしてろよ。ああ見えて、結構モテる……」
「晶!」
その場を立ち去ろうとする晶に、亜澄がすがった。二歩、三歩と距離を縮め、細い腕を取ろうとした、その時。「昔取った杵柄、てか」
晶が、自分に腕を取られて道路に転がった亜澄を見下ろして、舌を出した。
「女にうつつを抜かすから、こーなるんだよ。おまけに、とっくに縁の切れた幼馴染の尻まで追っかけて、余計なお世話って、知ってますぅ?」
自分の言葉に自分が傷ついている事を、晶は充分自覚していた。
けれど、やめられなかった。
このまま、亜澄を嘲笑して。
嘲笑する自分を嫌いになって。
ますます、ますます自分を嫌いになって。
それが自業自得だと、自分にふさわしいと思っていた。
「晶」
硬いアスファルトに転がったまま、亜澄の目が、彼に似合いの真っ直ぐな目が、晶を見ていた。
「晶、お前、泣きそうだ」
それから数日。
亜澄は、店に姿を現さなかった。
それはそうだ、渾身の力で横っ腹を蹴り上げられて、次の日から平然と酒場に来られるほど、亜澄は鍛えられた体躯をしていない。
安物のジャケットの下の身体はむしろ華奢な方で、だから、己が与えた一撃に見合う以上の痛手を亜澄が被ったであろう事を、晶は確信していた。
良くて通院だろうと思っていた矢先、閉店寸前の店の忙しさに紛れて、羽山詩織が晶の制服の裾を引っ張った。
一瞬のアイ・コンタクト。
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