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「何でお前が俺を好きになるんだよ。お前、男が好きなわけ?」
すると、亜澄は目を瞬かせた。
「いや」
「じゃあ、女が好きでいいんだよな?」
「う?ん……」
亜澄はそこでまた首を傾げる。
「そういうん……でも、ない気がするんだ。別に、男女どっちが好きとも言えない」
晶はたまらず亜澄に迫った。
「はっきりしろよ!!」
「してる」
ここで重要なのは、晶が通常ではありえないほど客席に身を乗り出していた事、そして、それ故に、二人の顔がかつてないほどに至近距離にあった事だった。 目の前の幼馴染の唇を素早く奪って、表情も殆ど変えず、亜澄は晶の耳元に繰り返した。
「俺が好きなのは、和泉晶。永井亜澄が愛しているのは、和泉晶です」
まるで漫画のような告白をあっさりとしてのけた亜澄は、身を引くと、真っ赤になって硬直している晶に向かってにっこりと笑った。
「羽山さんと話していると、晶の話がたくさん聞けて嬉しかった。マスターもだけど、同じ店で働いてるから、俺の知らない晶をたくさん知っていて。でも、あのマスター相手だと、いつか俺の気持ちがばれてしまうと思ったから、途中で彼女が俺の相手してくれるようになってほっとした。――けれど、彼女が俺に恋するなんて思ってもみなかった。だって、俺は見ての通りいい男とは言えないし、年下だし、――晶に夢中だったから」 目が見ている。
亜澄の目がこちらを見ている。
亜澄の、彼に似合いの真っ直ぐな目が、自分を、真っ直ぐに見ている。
「――こんな風に言うつもりは……一生、言うつもりは無かったんだけどな。まぁ、流れだからしょうがない。もう二度と来ない。迷惑をかけてすまなかった。確かに、いつまでも幼馴染って言い張る訳にもいかないな」
ご馳走様、と亜澄が視線を外して席を立つ。
その手を掴んだのは無意識だ。
このまま行かせていいのか、と脳の奥で誰かが言う。
ずっと抱えていた想いを、このままにしておいていいのか、と誰かが言う。
後押しするのは店長の声。『いつも、君の方ばかり見てるじゃないか』
後押しするのは羽山詩織の声。『いつも、毎晩、あんなに、和泉くんの事を見てるのに』 そんなの、自分だって、ずっとだ。
再会したあの夜から、ずっと。
視線を合わせることは出来なかったけれど、ずっと――
「……俺だって見てた」
「え?」
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