第1章

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 腕を掴んだまま下を向いてしまった晶の顔を覗き込むように、亜澄が首を動かした。  それをぱしんと手で払って、閉店までいろ、と晶は息を吐く。 「どうして?」  不思議そうな亜澄に、晶は頬を膨らませて言った。  せいぜいふてぶてしく。  まるで子どもの頃みたいに。 「仲直りだ。なーかーなーおーり!! 四年越しの絶交を解いてやろうじゃねーか。言っとくが、俺ほど面倒くさい奴はそうそういないからな!!」  顔を見られるのが嫌で背を向けると、ぶっと亜澄の噴出す音がした。「……よく知ってる」  その言葉を聞いた途端、ことりと胸のつかえが落ちた気がした。  最初から、受け入れられていたのだ。  中学三年生、自分の性意識の畸形さを彼に告白した時から。  いや、ひょっとすると、それ以前から。  ありのままの自分で良いと。  そのままの君が好きだよと。  繰り返し繰り返し、この幼馴染は自分に伝えてきたのではなかろうか。 「俺はちゃんと俺に生まれてきた……か」  呟くと、背後で「ん?」と亜澄の声がする。  その声の近さに、後ろめたさが消えていく。  生きていて良かったと思う度に感じていた、後ろめたさが消えていく。  その時、店の奥から店長が出てきて、笑い合う二人の様子に顔を綻ばせた。そのまま接客に向かおうとする店長の背中に、晶はこそっと囁いた。「店長、店が終わったら、お話したい事があるんです。ずっと、お話していなかった事なんですけれど――」 了
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