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腕を掴んだまま下を向いてしまった晶の顔を覗き込むように、亜澄が首を動かした。
それをぱしんと手で払って、閉店までいろ、と晶は息を吐く。
「どうして?」
不思議そうな亜澄に、晶は頬を膨らませて言った。
せいぜいふてぶてしく。
まるで子どもの頃みたいに。
「仲直りだ。なーかーなーおーり!! 四年越しの絶交を解いてやろうじゃねーか。言っとくが、俺ほど面倒くさい奴はそうそういないからな!!」
顔を見られるのが嫌で背を向けると、ぶっと亜澄の噴出す音がした。「……よく知ってる」
その言葉を聞いた途端、ことりと胸のつかえが落ちた気がした。
最初から、受け入れられていたのだ。
中学三年生、自分の性意識の畸形さを彼に告白した時から。
いや、ひょっとすると、それ以前から。
ありのままの自分で良いと。
そのままの君が好きだよと。
繰り返し繰り返し、この幼馴染は自分に伝えてきたのではなかろうか。
「俺はちゃんと俺に生まれてきた……か」
呟くと、背後で「ん?」と亜澄の声がする。
その声の近さに、後ろめたさが消えていく。
生きていて良かったと思う度に感じていた、後ろめたさが消えていく。
その時、店の奥から店長が出てきて、笑い合う二人の様子に顔を綻ばせた。そのまま接客に向かおうとする店長の背中に、晶はこそっと囁いた。「店長、店が終わったら、お話したい事があるんです。ずっと、お話していなかった事なんですけれど――」
了
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