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未成年とバレているので店では飲めなかったが、コンビニに寄ればいくらでも安酒が買える。自分の外見が二十歳以上の男に見える事に安心して、その安心の理由には気づかない振りをして、安アパートでゴクゴクと飲んだ。翌日に残らない程度に、という当初の気遣いも、日毎にあからさまになっていく詩織の亜澄へのアプローチにあっという間に吹き飛んだ。浴びるように、という描写が最も適切だった翌日、出勤してきた晶に店長が渋い顔で苦言を呈してきた。
「駄目だよ、晶くん。決してアルコールは摂らない、という条件で雇っているのに、そんなにお酒を匂わせて、それじゃあお客様にも分かってしまう。今日はいいから、もう帰って。今度こういう事があったら、解雇も検討するからね」 制服に着替えかけていた晶は、その手を止め、解雇、という言葉を舌の上で転がした。酒で濁った頭にも、それは理解できた。
――それも、いいかもしれない。このまま、亜澄と詩織が話すのを見続ける毎日が続くなら。
遠い目をした晶に、店長は何かを感じ取ったのかもしれない。彼は慌てて付け加えた。
「永井くんも心配しているんだ。日毎、君の顔に精彩が無くなっていくようだから――お友達に心配をかけちゃ駄目だよ」
永井、お友達、心配――意外な言葉の羅列に、晶は店長の顔をまじまじと見つめた。
「心配……亜澄が?」
こぼれた言葉に、店長は頷く。
「詩織ちゃんがいない時は、永井くんは、いつも君の事を気にしてる――気づかなかったのかい? いつも、君の方ばかり見てるじゃないか」 知らない。
そんな事は、知らない。
いつも、見ているのは晶のほうだ。
いつも、気にしているのは晶のほうだ。
いつも、思っているのは、彼を、思っているのは――
頬が熱くなるのが自分でも分かった。
酒で動きの鈍い頭を叱咤して、これまでの亜澄を思い返す。
再会した五月の初め、ひとり奥の席でウーロン茶を飲む亜澄。
様々な人が入れ替わり立ち代り彼に話しかけたけれど、彼は興味の無さそうな素振りでそれらを一蹴し、ある人は激怒して席を立ち、ある人は気に入ってより話しかけるようになり、ある人は一度きりの会話で満足したように去っていった。
亜澄は専ら店長と話すか、静かにグラスを傾けていた。
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