氷炎

10/11
前へ
/11ページ
次へ
「この度は……」  言葉の最後は、くぐもる様に口の中で潰えた。  法事の時の挨拶はこれぐらいで良いのだ。  首を巡らせば、春の陽射しの中、産まれたばかりの幼子を抱く女性の姿。凛としながら、今にも崩れてしまいそうな脆さが有る。  瞳に溜まる涙は、零さない。  無条件に美しいなと思う。その女性の前に座り、頭をもう一度下げた。 「お久し振りです。あいつの親友として、僕に出来る事は何でもしますので。頼り無いかもしれませんが、あいつの何割か位には頼って下さい」 「あの」 「あいつとは同じ大学、同じサークルに居ました。僕だけ夢を追うとか言っちゃって、就職しなかったんですけど」  語りながら、さりげなくポケットの煙草を取り出す。箱から一本を引き出し掛けて、わざわざ手を止める。 「あ、すみません。不躾ですよね」  元来吸わない煙草を片付け、幼子に向かって微笑んで見せた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加