氷炎

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 彼女は僕への好感度を一気に上げた様だ。  硬い雰囲気が氷解し、柔らかく綺麗な微笑を浮かべる。  はっ、お嬢様って奴は騙し易いね。  否、恋は盲目か。  まあ、初恋実らせて結婚にまで至った女だ。恋の駆け引きは分かっちゃいないよな。  共通の知り合いってのは懐に潜り込み易い立場さ。それが死んだ旦那の親友で、人への気配りがさりげなく出来るなら尚更に良い人の印象が付く。  さて、どれくらいで落とせるかな。  上手く立ち回れば一年くらいで夫の座をせしめるかな?  ふふん。  あいつも馬鹿だよな。懐かしいサークルのメンバーに誘われたからって、ひょいひょい付いてくかね。登った事も無い冬山にさ。  まあ伝説を拾って教えたのは、こうなる事を望んでだけど。  阿呆みたいに上手く行ったよなあ、恋心ってのは利用しやすいもんだ。  僕は悲しむ素振りで、薄ら笑いをハンカチで隠しながら懐の煙草にもう一度触れる。  こいつが有れば、ガキの一人簡単に殺せると。
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