氷炎

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 麓で懐かしくもその虫を見かけ、一緒に山登りを楽しもうと誘った友人に声を掛ける。  彼は余り虫には興味を持たない性質らしく、ふうんと生返事。  幼い頃の自分を思い出して、一人笑った。 「こっちまでは未だ雪は降りて来ていないなあ。でも山頂には積もっている」 「本当に山小屋まで行くの?」 「うん。子供が産まれたら、もう山はやれないだろうし」  一端の登山家気取りで、彼は山をやる等と言う。  お遊びみたいな大学の登山サークルでは、冬山は一度も登った事が無い。  皆、寒いだの自分達の装備じゃ登はん出来ない等と簡単に尻込みして本格的な登山はやっていないし、富士山は登った事が有るが夏山の運良く条件の揃った日の登山だった。  しかもそれですら高山病に倒れた者が出て、サークルのメンバー三人は途中下山。  六人中、半分しか登らなかったというお遊び仲間だ。  社会人になって三年で早くも結婚を果たした彼を、正月休みに昔を思い出して山登りしませんかと誘った。  奥さんが臨月で里帰りしている為か、羽の伸ばし放題の彼は一も二も無く誘いに乗り、今ここに居る。
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