氷炎

6/11
前へ
/11ページ
次へ
 ふわりと、視界に白いものが入り込んだ。 「雪?」  空に舞うそれに彼が手を伸ばす。  肌に触れても、溶ける事のないそれ。 「雪虫じゃないの?」  覗き込むと、受け取られたそれは雪の欠片でも虫でもなかった。 「何だ、灰?」  指先に摘まんで擦れば、細かな粒子となって崩れ果てる。  もう一つ、ふわりと風に運ばれて来た。  それも受け止め、灰である事を再び確かめる。 「誰かが、火を焚いている」 「風上からだよね」  二人して、辺りを見渡す。  ふわりと、頼りなげなく飛んで来る灰。  その仕草が、優しく手招きしているみたいに見えた。 「行こう」
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加