氷炎

8/11
前へ
/11ページ
次へ
 火勢が弱まる度に、小屋の片隅に積まれたほだ木を放り込む。  出入口の無い小屋は殆ど外と変わらず、身体は一向に温まらない。 「カルマン渦って言うんだってな」  焚き火の先端にある炎が渦巻くのを指差し、彼が呟く。 「炎舞って絵が有るんだけどさ、真っ暗な中に炎が焚かれていて、その周りを蛾とかの虫が飛び交っている構図の……日本画だったかな」 「いい加減だね」  曖昧な記憶を笑う。 「うん。でもさ、その中にああやって渦巻く炎がきちんと描かれているんだ。それに炎の中に飛び交う蛾が凄く妖しげな雰囲気でさ、背景の闇色と炎の色と、綿密に描かれていて見ていると吸い込まれそうな絵だった」  語る彼の首がことんと傾き肩に乗る。 「寒いね」 「うん」  返す言葉にわずかに頭が振られる。  そのまま、穏やかな寝息を立て始めた。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加