第1章

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淡雪が密やかに降りしきる午後、静かに傘を閉じながら幸せそうに小さな吐息をついた。 空からわずかな光が差し…上げた?に柔らかな冬の花がひとひら舞う。 「風花…?」 思わず綻ぶ唇の端に乗せるように囁く冬の歌が雪と共に弾む。人気のない休日前の小道は少女にとってはつかの間、総てを忘れられる結界の中にあった。 「危ない!避けろ…っ!」 儚い華に差し伸べようとした手が、止まった。目の端に身を引く黒い影と駆け寄る男性の姿が過ぎった。 完全に安堵していた意識は咄嗟の判断が出来ず、僅かに傾ぐだけ。よじった身体に衝撃が走る。それは何処までも昏く、狂おしい悪意の塊…。禍々しい何かは胸を貫通し、尚も身体を駆け巡りながら総ての機能を侵食していく。為す術もなく急速に生命の光と体温を失っていく身体と闇に墜ちていく畏怖に囚われる。 これは、魔術‥なの?兄様が近づくなと教えてくれた、悪い魔法‥? 「良かった‥僅かに急所は外れている‥。」 穏やかな優しい声‥。僅かに呻き、無意識に伸ばした指の先に、眩い光が溢れた…。取られた手の中に輝く星が渡されたのかと思うほどに。 「…君は俺が必ず護る。」 光の中、彼は優しく微笑み…頷くかわりに僅かに瞬きをした私の身体を自らのコートでくるみ、そっと引き寄せてくれた。 「彼女に何をした…。」 怖ろしい程に落ち着いた静かな問いかけだった。それでも彼に触れている私にはわかる‥。彼が尋常ならざる自制心で怒りを抑えていることが。 感情を抑え込まなければならぬほどに、あの影から生まれたような魔は、強力なのだと‥。 「‥答える理由はない、と言いたいが‥」 魔は楽しそうにくつくつとくぐもった笑い声をたて、 「その娘の魂が四散する様を愛でたかった、というところか‥」
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