線香花火

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壮年の庭師に混じって一人だけ少年期から脱しきれていないような仇気無さを仕草の端々に感じさせる椿が居ることが、私のみならず家人達をひどく面喰らわせたようだった。 「何しろ漸く見つけた弟子なもので」 親方の由さんが言っていた。 「しかし手先は器用ですし、熟練の私でさえ時折おやと思うような手つきをしますよ、椿は」 そう親方に褒められても、椿は別段はにかむようなこともなく憮然としている。同世代の少年達は皆きれいに頭を刈っているというのに、肩まで垂れた髪を、頭の後ろで高くひとつに結い上げているのが殊更目を引く。庭仕事をしているくせに日焼けもせず色白で、役者か何かのようだと、ねえや達が繕い物をしながら部屋でひそひそと噂するのを度々耳にしたものだ。 とにかく椿は器量が好いから女中達は何かと理由をつけて椿の世話を焼きたがったし、私の姉々もまた然りで、母は眉を顰めていたのだけれど、しかし椿を最も気に入ったのは父なのだった。 よくよく話をしてみると学があり、独学で英語を解するばかりでなく、英国の造園術に並々ならぬ興味を抱いていると知り、父は今度の洋行にぜひ椿を伴うとまで言い出したので母はひどく閉口したが、姉達はそれが可笑しくて堪らない様子だった。 「父様ときたら、椿を養子にでも迎えるような勢いよ」 年嵩の姉が声を潜めて微笑う。 「とても可笑しいことね」
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